
公務員をしていますが、日々の仕事にどこか閉塞感があります。資格を取って民間企業に転職しようと思い、「中小企業診断士」の資格に興味を抱きました。
こんな方に向けて書いている記事です。
公務員という安定した立場にいながらも、硬直的な組織風土に違和感を抱いたり、変化の乏しいキャリアに限界を感じたりして、転職を考える方は少なくありません。
実際、私はコンサルティング会社で中途採用の面接官をした経験がありますが、公務員の方とも数多くお話をしてきました。
公務員から民間企業に転職する際、難関資格を持つことは、意欲の高さをアピールする強力な武器となります。
特に中小企業診断士は、公務員とのシナジーも強く、かつ転職市場でも一定の評価が得られる資格です。
この記事では、中小企業診断士資格を活かした公務員の転職先や面接における注意点、転職の成功例などを丁寧にお話しします。ぜひ最後まで読んでください。


執筆者:花月 諒(中小企業診断士)
通信講座と独自の二次試験解法を用いて、約200時間の学習で中小企業診断士試験に一発合格。効率の良い勉強法や合格をつかむマインドを発信。福岡県中小企業診断士協会所属。


転職を志す公務員は増えている
近年、公務員の転職・退職をめぐる動きが顕著になっています。地方公務員(一般行政職)の普通退職者数は、2013年から2022年の10年間で2倍以上に増加しています。(6,043人→12,501人)


特に「30歳未満」「30歳以上40歳未満」の退職が増加しています。
新卒採用の市場でも、公務員の人気は低調です。総務省『令和5年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果』によると、2014年から2023年の10年間で、地方公共団体の採用試験受験者数は15万人以上も減少しています。(約55.2万人→約39.9万人)



若い世代ほど、仕事には安定よりも自己実現を重視し、かつ、転職も1つの選択肢として抵抗なく考える傾向にあります。
これらの背景には、旧態依然とした組織風土や規則を重んじる仕事のプロセスが、若手〜中堅層の価値観と合わないことなどが挙げられるでしょう。
公務員の転職は、そこまで珍しくない時代に入っています。
中小企業診断士が公務員の転職に役立つ3つの理由
転職を考え始めた公務員の方にとって、中小企業診断士の資格取得は大いに役立つと言えます。その理由は以下の3つです。
- 経営知識を体系的に学べる
- 公務員の職務経験と親和性が高い
- キャリアの選択肢が広がる
それぞれについて、くわしく説明します。
経営知識を体系的に学べる
中小企業診断士の試験では、経営戦略・財務会計・マーケティング・組織論など、企業経営に必要な知識を網羅的に学びます。
これらの知識は、民間企業の実務でそのまま役立つものも多く、「ビジネスの基礎知識を身につけている行政出身者」として、高く評価してもらえる可能性があります。



社会人になってからも学び続ける意欲もプラスに評価されるでしょう。
公務員の職務経験と親和性が高い
産業振興や中小企業政策などの部門で勤務経験がある公務員であれば、中小企業診断士試験で学ぶ知識と実務が自然にリンクします。
補助金事業の審査や創業支援、事業者との協働経験は、まさに「中小企業の経営課題解決を支援する」という中小企業診断士の役割と一致します。
そもそも中小企業診断士は、産業政策に関わる公務員のための資格として発祥した経緯があり、公務員とのシナジーが高いです。くわしくは以下の記事を読んでください。


キャリアの選択肢が広がる
中小企業診断士を取得することで、転職のみならず、副業や定年後の独立など、多様なキャリアの可能性が開けます。
たとえ今すぐ転職しなくても、将来の保険として持っておく価値が非常に高く、選択肢を自分の手に収めることができます。



自分には他の道もあると思うことで、気持ちの余裕が生まれ、かえって本業のパフォーマンスも高まります。
中小企業診断士を持つ公務員におすすめの転職先5選
中小企業診断士の資格を持つ公務員の方におすすめできる転職先の例として、以下5つを紹介します。
- 地方銀行
- 第三セクター
- 士業法人
- コンサルティング会社
- 事業会社(中小企業)
地方銀行:地域密着の金融支援に、公務経験と診断士の知見が活きる
地方銀行では、中小企業向けの融資審査や経営支援、再生支援などに診断士の視点が求められています。
公務員として補助金審査や地域経済政策に関わった経験があれば、金融機関にとっても大きな魅力です。
特に「企業を育てるパートナー」としての発想ができる人材は重宝され、従来の融資一辺倒ではない“伴走支援型”の人材として期待されます。
第三セクター:地域活性と経営の両立を担うハイブリッド人材に
観光・商業・地域振興などを担う第三セクターでは、行政と民間の両方に理解がある人材が求められています。
公務員時代に事業計画や政策立案を経験していれば、経営的視点と公益性のバランスを取れる存在として即戦力に。
診断士の知識を活かして、収益化戦略や業務改善などに踏み込むことも可能です。組織の枠を超えて地域に貢献したい人に向いています。
士業法人(会計事務所・社労士法人など):中小企業支援の実務が身近な現場で学べる
税理士法人や社労士法人などの士業事務所では、補助金申請支援や経営計画書の作成など、中小企診断士のスキルが活かされる場面が豊富です。
公務員時代に中小企業支援や制度設計に携わっていた経験は、「制度を使いこなせる人材」として高評価につながります。
経営の現場により近い立場で働けるため、実務経験を積みながら専門性を磨く場としても最適です。
コンサルティング会社:公共×民間の橋渡し人材として高評価
経営コンサルティング会社では、中小企業の再生支援や補助金活用支援、経営改善計画策定などの業務に携われます。
公務員として制度設計・運用に関わった経験と、診断士としての理論的な知識を持っていれば、「制度を使って企業を動かせる人材」として高く評価されます。
特に、事業再生や補助金支援に強い中堅・地域系のコンサル会社では、経験と志向がマッチしやすい傾向にあります。
中小企業(行政と関連が深い職務):経営者の右腕として地域に根ざした支援を
中小企業の中には、行政対応や補助金活用、地域連携を日常的に行っている企業もあります。
中小企業診断士としての知見と公務経験を併せ持つ人材は、経営者の“参謀役”として信頼を得やすく、バックオフィス強化や資金調達支援を担う立場での採用も見込まれます。
大企業とは違い、裁量を持って経営に踏み込める点で、やりがいも大きいフィールドです。
公務員が民間企業の面接を受ける際の注意点3つ
私はコンサルティング会社の採用面接官として、数多くの公務員の方とお話しをした経験があります。
その中で、たまに「せっかく良い経験を積んでいるのに、もったいないな」と感じる人がいました。その経験を踏まえ、面接を受ける際の注意点を3つご紹介します。
①「決まったことだけやります」というスタンスは控える
公務員の業務では「ルールに従う」「慎重に進める」ことが求められますが、それがそのまま面接に出てしまうと、主体性の乏しい人と見なされてしまいます。
民間企業では、自ら課題を見つけ、行動する人が求められます。面接では「自分で考えて動いた経験」を語ることが鍵です。
② 資格そのものをアピールしない
「診断士を持っていること」だけでは武器になりません。
- なぜ診断士を取ったのか
- どんな工夫をして合格したのか
- どんな場面で活かしたいのか
こうした、自分なりのストーリーを語ることで初めて、資格が意味を持ちます。
③ 自分の言葉で伝える
「用意された感じの答え」はすぐに伝わってしまいます。仮に内容が正しくても、「本当にそう思ってるの?」と面接官から感じられると、かえって逆効果です。



少し言葉が拙くても、自分の気持ち・価値観を率直に話せる人の方が、信頼されやすくなります。
中小企業診断士×公務員の転職の成功例
私の知人の例から、中小企業診断士を活かした転職の成功例を2つ紹介します。
ケース①:公務員からコンサル会社に転職(30代)
Aさん(33歳)はある地方都市の県庁で、産業政策に係る仕事をしていました。仕事を通じて中小企業を取り巻く経営環境の厳しさを痛感し、中小企業に寄り添った支援をしたい想いが高まりました。
しかし公務員は独立性の観点から経営の内部に深く入りこんだり、特定の企業・経営者と親身な関係を構築することが難しい。そこでAさんは転職を考えました。
転職の動機に覚悟と説得力を持たせるため、予備校に通学して中小企業診断士資格を取得し、中小企業の経営改善支援に特化したコンサルティング会社に転職しました。
転職後は事業面や財務面のデュー・ディリジェンスや、経営改善計画の策定に取り組みつつ、公務員の経験を活かして行政対応等の相談にも乗っており、企業からも社内からも高い評価を得ています。
ケース②:対行政・補助金対応を強みに独立(40代)
Bさん(42歳)は、県の商工労働部門で長年中小企業支援に携わってきた公務員でした。
補助金審査、制度設計、事業者ヒアリングと、現場の経営者と接する機会も多く、次第に「もっと直接的に企業の役に立ちたい」という思いが強まっていきました。
40歳を過ぎた頃、思い切って中小企業診断士の勉強を開始。二次試験に合格したタイミングで退職を決意し、いきなり独立という選択をとりました。
最初は不安もありましたが、元公務員というバックグラウンドを活かして、次のような分野に絞って活動を開始しました。
- 補助金申請支援(ものづくり補助金、事業再構築など)
- 行政との連携事業に取り組む企業へのアドバイザー業務
- 地域商工団体向けセミナーの講師依頼
行政の内部事情に精通していたことが信頼につながり、「公務の言語と民間の論理、両方を理解してくれる人」として少しずつ口コミでクライアントを獲得。
特に補助金申請では「審査する側だった人が味方についてくれる」と経営者から好評を得ました。
今では、地元の支援機関からも外部専門家として依頼が来るようになり、年収は退職前とほぼ同等。それ以上に、誰に忖度することもなく、企業と真正面から向き合える今の働き方に、大きなやりがいを感じているそうです。
まとめ:中小企業診断士は、あなたの選択肢を広げるカギになる
今回は、中小企業診断士を活かした公務員の転職についてお話ししました。
安定した立場を離れることに、不安を感じるのは当然のことです。でも、それと同じくらい、今の働き方に疑問を抱いたり、「もっとこうありたい」と願う気持ちも、本物だと思います。
中小企業診断士は、その想いに答えてくれる資格です。民間企業や地域支援の現場で活かせる専門知識を得られるだけでなく、「自分の力で価値を生み出せる」という自信も与えてくれます。
転職するかどうかは、資格を取った“後”に決めてもかまいません。診断士を通して、自分にどんな可能性があるかを知ること。そして、その先にどんな生き方がしたいのかを見つけること。それだけでも、あなたの人生は大きく前に進みます。
これからのキャリアを、“配属”ではなく“選択”でつくっていきませんか?
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