中小企業診断士の制度見直し・変更について|近年の動向を解説

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中小企業診断士制度は、近年、大きく変化しています。

受験生として、あるいは実務家として制度に触れる中で「なぜこのような改正が行われているのか?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

今回は、中小企業診断士制度における見直しや変更点について、近年の動向を中心に、その背景を含めてわかりやすく解説します。

花月諒(イラスト)

執筆者:花月 諒(中小企業診断士)

通信講座と独自の二次試験解法を用いて、約200時間の学習で中小企業診断士試験に一発合格。効率の良い勉強法や合格をつかむマインドを発信。福岡県中小企業診断士協会所属。

中小企業診断士試験に効率よく合格できる勉強法を知りたい方は、以下の記事から先に読んでいただけると、本記事の理解がより深まります。

目次

中小企業診断士の制度見直し・変更の背景

前提として、国は中小企業診断士を増やそうとしています。その背景にあるのは、中小企業の深刻な窮境です。

後継者の不在など従前からの課題に加え、コロナ禍による経営難、ゼロゼロ融資などの施策で一時的に延命された、いわゆる「ゾンビ企業」の増加など課題は山積みです。

ゾンビ企業の割合はコロナ禍後に急増している。
帝国データバンク「ゾンビ企業」の現状分析(2025年1月)より引用

窮境に陥った中小企業の支援を行う「中小企業活性化協議会」への相談件数も、コロナ禍以降は急増しています。

中小企業活性化協議会への相談件数も急増している。
中小企業活性化協議会の取組み状況と今後の方向性(2025年3月)より引用

こうした状況下で注目されているのが、中小企業に寄り添った支援ができる専門家です。

中でも中小企業診断士は、国の制度として育成されてきた唯一の経営コンサルタント資格であり、現場での活躍が期待されています。

中小企業診断士制度の成り立ち

実は、中小企業診断士制度には70年以上の歴史があります。その始まりは、1952年(昭和27年)に創設された「中小企業診断員」制度です。

当時は中小企業支援を担う公務員向けの国家資格という位置づけでした。くわしくは以下の記事で解説しています。

その後、経済環境の変化に対応し、2000年度(平成12年度)に中小企業指導法・中小企業支援法が改正されます。

これにより、制度は民間の経営コンサルタント向け資格として再構築され、翌2001年度(平成13年度)から現在の制度(中小企業診断士試験、登録養成課程、登録更新)などがスタートしました。

つまり今の「中小企業診断士」は、旧制度のDNAを受け継ぎつつも、民間の実務家を中心とした新たな国家資格として再定義された存在なのです。

中小企業診断士制度の見直し・変更(近年の動向)

ここ数年、中小企業診断士の制度は大きく変化しています。主な動向を説明します。

科目合格者への名称付与(2021年度)

2021年度(令和3年度)から、試験の合格状況に応じ、以下の名称を履歴書に書けるようになりました。

  • 中小企業支援科目合格者
  • 中小企業診断習得者

分かりづらいですが「中小企業支援科目合格者」は、一次試験の一部科目に合格している人が書ける名称です。以下のように記載します。

▲▲年度中小企業支援科目合格者(科目名)

また「中小企業診断習得者」は一次試験の全科目に合格した方が書ける名称です。こちらは以下のように記載します。

◾️◾️年度中小企業診断習得者

きっかけとなったのは、2020年10月6日に開催された、第14回・経済財政諮問会議での新浪剛史議員(サントリーホールディングス株式会社代表取締役;当時)の以下の発言でした。

経営人材の育成も非常に重要。例えば、中小企業診断士について、非常に意味のある資格だと思うが、・・・1次試験では7科目全てに合格しないと試験に通過できないなど、大変難易度が高いものとなっている。中堅・中小企業の経営を担うことのできる人材の裾野を広げていくためにも、例えば、中小企業診断士の科目にデジタル入れるとともに、全ての科目を合格しなくとも、税理士のように一つ一つの科目で合格しても何らかの位置付けを付与することを考えてみてはどうか。

令和2年第14回経済財政諮問会議 議事要旨より引用(原文ママ)

これを受け、翌年度から上記の名称が付与されることになりました。

本質的な意味がある施策かと言われると微妙に思いますが、受験者のモチベーションや、企業への訴求力を高める効果はあるでしょう。

かげつ

実際、中途採用で応募者の履歴書を見ていると、これらの名称をたまに目にします。

口述試験の廃止(2026年度以降予定)

現行制度に移行してから、中小企業診断士試験は以下の三段階で実施されてきました。

  • 一次試験
  • 二次試験(筆記試験)
  • 二次試験(口述試験)

このうち、二次試験(口述試験)の廃止が検討されています。背景には試験運営者(中小企業診断士協会連合会)の財政難があります。

中小企業診断士試験の運営は赤字となっており、コロナ禍でのソーシャルディスタンス対応や、2023年度の沖縄地区再試験実施などで累積赤字が拡大しています。

2025年5月にはパブリックコメントも募集され、本格的な制度改正の動きが始まっています。詳細は以下の記事で紹介しています。

受験手数料の見直し(2026年度以降)

口述試験を廃止と合わせて、受験手数料の見直しも検討されています。下はその概要を整理した表です。

試験現行の受験手数料
(2025年度)
見直し案
(2026年度以降?)
一次試験14,500円17,200円
二次試験(筆記)17,800円15,100円
二次試験(口述)(廃止)
合計32,300円32,300円
受験手数料の見直し案

口述試験の廃止に伴い、二次試験の受験手数料は引き下げます。一方で、一次試験の受験手数料は引き上げます

これにより、受験手数料の総額は現行の32,300円のままとなります。

かげつ

受験者数の多い一次試験側に寄せることで、累積赤字の解消と繰越金の確保を図ることが目的と考えられます。

受験手数料の見直しについて思うこと

口述試験の廃止には賛同する声が多いですが、受験手数料の見直しには、否定的な意見も少なくありません。

SNSやパブリックコメントを見ても、一次試験の手数料値上げは受験者のハードルを高める」という趣旨の批判的な声が多く見られます。

私自身も、ここ数年で中小企業診断士試験の門戸を広げてきた流れと整合しない印象を受けます。しかし安定した試験運営のため、財源の確保が必要なのも理解できます。

受験者の納得感を得るには、受験手数料の見直しとセットで、受験者の時間的・心理的コストを下げる施策や、取得のメリットを感じられる施策を合わせて講じる必要があるでしょう。実現できるかはともかく、一例を挙げると以下です。

  • 独占業務の設定
  • 企業内診断士の独立を支援する仕組み作り
  • 二次試験(筆記)の内容見直し

業界全体で、中小企業診断士の専門性を高めたり、それが中小企業の経営者や他の専門家に伝わるようにする取り組みが必要です。私も、自分にできる仕事をコツコツを積み上げながら、ノウハウをこのブログで発信したいと思います。

中小企業診断士は今が狙い目

この記事では、中小企業診断士の制度の成り立ちから、制度の見直し・変更の動きを解説しました。

中小企業の経営は一層厳しさを増しており、その状況下では中小企業診断士に求められる役割はどんどん大きくなるでしょう。

当面は、国も中小企業診断士の魅力を高め、勉強に取り組みやすい制度を設計する努力を続けるものと思われます。

受験者の立場からすれば、狙い目とも言えます。興味がある人は、すぐに勉強を始めましょう。資格試験の勉強は最初の一歩をいかに早く踏み出せるかが重要です。以下の記事もぜひ参考にしてください。

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